大学院の教育
大学院カリキュラム
経済現象の解明に挑む
経済学・経営学を学ぶということは、私たちが生活している社会や、働いている組織について、 その構造や変化の仕組みを解明するということです。現在、世界各地で地域紛争、貧困、環境破壊などの深刻な問題が生じています。国内でも、医療、少子高齢化、女性の社会進出など、急速で大きな構造変動に直面しています。このように、経済学・経営学が取り組むべき課題は山積しており、今後の新しい発展が期待されています。 このような背景のもと、本研究科は、最先端の学問を教授する場であり、同時に、研究に取り組む者どうしが切磋琢磨しあう討論の場であること、そして「応用能力」と「研究能力」を備える一流の研究者ならびに高度な専門的職業人を育成することを目指しています。
本研究科は、理論・政策、制度・歴史、経営・会計などの分野で、理論研究,実証研究,文献研究,事例研究など広範な領域におよぶ研究を進めています。本研究科の組織は、「社会経済システム専攻」と「産業経営システム専攻」の2専攻で構成され、多様な問題関心を持った学生を広く受け入れるとともに、社会人、外国人留学生にも積極的に門戸を開放し、現代的で国際的な教育環境を整備しています。こうした環境のもとで、経済学・経営学の両分野にわたって講義、演習、論文指導などを組み合わせた教育をおこなっています。なお、前期課程には、在職のまま入学できる社会人コースを設けています。
ゼミでの活動 (学術奨励賞)
2019年度 博士後期課程 入学生
菊池 悠矢さん(玉井ゼミ)
研究について
私の研究対象は、財政・公共経済学という学問領域の中で、財政競争と呼ばれる分野です。財政競争とは、税や補助金、インフラ整備、規制緩和などの政策手段を用いて、企業や投資、人材などを誘致する競争のことです。代表的な例として、企業誘致のための法人税引き下げ競争が挙げられます。研究は、財政競争が経済にどのような影響を及ぼすのか、その功罪の解明とよりよい経済状況をもたらす仕組みや制度の開発を目的としています。近年、財政競争分野では雇用との関係が着目されています。私は、国・地域の雇用改善を目的に政府が企業や工場を誘致する自然な設定の下で、よりよい状態をもたらすための財政政策の制度設計を研究してきました。その中でも特に財政競争の有害性を解決する財政移転の制度設計が中心テーマです。
ゼミについて
ゼミは週に一度開催されており、ゼミ生が自身の研究テーマに沿って発表をしています。博士前期課程(M)の学生は、先行研究の発表や修士論文の作成を行います。博士後期課程(D)の学生は、研究アイデアの発表や自身の論文作成を行っています。2021年度のゼミ生はM5名、D2名、研究生2名で、その他に中部・関西圏の大学に在籍する教員が参加しています。過去には、他ゼミの院生や特別研究員などが加わったこともありました。また、留学生や社会人院生も在籍しており、多様なバックグラウンドを持った幅広い年齢層の参加者が一緒に学んでいるのが特徴です。
受賞について
私は名古屋大学学術奨励賞に応募し、受賞することができました。候補者の選考では研究発表が課されており、専門分野外の方々へ研究内容を分かりやすく説明するよう心掛けました。自身の研究が評価されたということで、大変うれしく思っています。丁寧にご指導いただいている玉井先生をはじめ、快く推薦書を作成していただいた東京大学の小川先生やアットホームな研究科の仲間に心から感謝いたします。
* 研究テーマ:財政競争と雇用問題:財政競争環境下における望ましい財政政策の制度設計
* 賞の名称:学術奨励賞
* 授与者名:名古屋大学
* 受賞年月:2021年5月18日
社会人大学院生修了者の声
2016年度修了生
山下 智さん(山田ゼミ)
大手重工業メーカー 民間航空機部門 名古屋勤務
私が大学院進学を決めた理由は、仕事上のさまざまなプロジェクトで、失敗や成功を経験するうちに、自分たちの意思決定に疑問を持つようになったことでした。選んだ戦略が、果たして本当に最適だったのか、最適なはずの戦略がなぜ失敗してしまったのか、また他業種や海外の企業のケースから失敗を予期できなかったのか、という疑問を抱くようになりました。他方、自社が進出しないと決めた市場で、その後に他社が進出し成功している事業もありました。そこで,将来、自社や自身の業務レベルで取るべき戦略を考えられるようになりたいと考えて、進学を決意しました。
大学院で学んで良かったことは、お金と時間を使ってでも勉強したいという、高い意欲を持った社会人どうしの繋がりを形成できたことです。東京など遠方から通学される方も多くいました。高い意欲を持った仲間と討議した経験は、今後の貴重な財産となると思います。
私を含め、社会人で大学院に通う人は皆、知識を仕事にフィードバックすることが最優先です。名大の大学院は、ビジネススクールではないので、たしかに仕事に直結する、即効性のある知識を得ることはできません。正直なところ、結果を事後的に分析するだけの研究や、「何が最適かはその時々の状況で変わる」という説明には釈然としない気持ちも残ります。また,多くが日本人という環境だったため、もっと外国人の学生と海外企業の戦略について議論をしてみたかったという悔いもあります。しかし、戦略を立てるための基礎的な財務・経営の学習や、他の学生とのディスカッションを通じて、全体像を把握し構造的に考える能力を身につけることができました。この力は、今後の仕事の様々な場面で役に立つと思います。
私は製造企業に勤めており、これまでは「良い品質のモノを提供する」というプロダクトアウトの発想を強く持っていました。ただ大学院で学ぶうちに、良い品質のものを提供するだけではなく、同時に「市場が求める機能・品質のモノを提供する」というマーケットインの発想や、それに基づく事業展開も必要であると考えるようになりました。
「志有る者は、事竟に成る」という故事があるように、目標をいつか成し遂げられると考えて、この2年間で得た考え方を、実社会での仕事に活かしていきたいと思います。
2016年度修了生
田代 達生さん(清水ゼミ)
地方銀行 法人営業
私は地方銀行において法人向け営業の仕事をしています。我が国は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」、いわゆるマイナス金利政策を選択し、銀行は従来からの伝統的な融資では稼ぐことが難しくなってきています。地方銀行は取引先企業への融資判断において、財務諸表だけでなく、その技術力や販売力、成長性といった、数字に表れない定性情報を織り込み(事業性評価)、企業と親密な関係を築く(リレーションシップ・バンキング)ビジネスモデルに深化することを問われています。
私が入学したのは39歳でした。これまで銀行員として約15年の法人営業中心の仕事を振り返ったときに、銀行員として自分はわりと腕の立つ(営業はそれなりにできる)ほうだと思うけれども、それがはたして金融の世界を良くすることに役立っているのか、という疑問を抱きました。そして、この疑問を学問的な世界から見直してみたらどうだろうか、と考え、本研究科を受験することにしました。
とはいえ、実は経済学について、当時の私はほとんど知識を持っていませんでした(大学は文学部卒業)。不安を抱きつつ入学してみると、ミクロ・マクロ・計量経済の各テーマにおいて、私のような属性の人に配慮した(と思われる)学部レベルからスタートする講義が、それぞれ用意されていました(しかし半期終了時には大学院レベルに到達する、いってみれば2階分の階段をいっぺんに駆け上がる講義で、ついていくのは相当大変でしたけれども)。本研究科を志される方々のために言えば、きっと何とかなります。
自分の関心のあるテーマは中小企業金融でした。清水先生から様々な先行研究を紹介していただき、論文(大半は英語)をあれこれ読んでいきました。全部で40本くらい読んだと思います。私は、リレーションシップ・バンキングに関する先行研究と、日本において行われていることが、どのように異なるか、という相違点に着目しました。修士論文では、「日本のリレーションシップ・バンキングは、なぜ稼げないのか?」という、(銀行員にとってはわりと刺激的な)テーマについて書きました。
大学院で中小企業金融についての学問的な知見を得たことで、私は、地方銀行のこれからのあり方を、理論と実践の両方の視点から、立体的にとらえることができるようになった気がしています。大学院で学んだことを基礎におき、今後も現場で新たな企画や案件に挑戦していきたいと思います。
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